遠山郷の12ヶ所、十三社で開催される霜月神楽である。神社内に湯釜を設け、その周囲で神事や舞をおこなうが、祭の内容は地区ごとに4タイプ(上町・下栗・木沢・和田)に大別できる。基本的には午後(夕刻近く)から祭場の祓いと神名帳奉読による神迎えに始まり、湯立てと舞をくり返す。そして夜中に全国の神々を返したのち、夜明けにかけて神社の祭神や地区内の神々が面となって登場する。面は一社あたり15面から40面があって、火の王・水の王とよぶ呪術面のほか祭神や神使(しんし)の獣面などがあるが、なかでも大きな特徴は旧領主遠山氏一族をかたどった「八社の神」とよぶ御霊(ごりょう)面の存在である。
祭を主宰するのはネギとよばれる民間の宗教者で、呪文を唱え、印を結び九字(くじ)を切るなど神仏混淆の形をよく残す。また、共食(きょうしょく)・献饌儀礼をきちんと伝える点でも注目できる。
遠山一帯は鎌倉時代、鶴岡八幡宮の信濃国唯一の神料地であった歴史をもち、13社中7社までが八幡神社で、多くは「鎌倉正八幡」を名乗る。当時、荘園儀礼として導入された祭が、遠山の霜月祭の起源と考えられる。